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2. モニタリング

2.1. モニタリングの仕組みの開発

従来の構造工学,橋梁工学は解析,実験を中心に進展し,様々な現象が明らかになり,複雑で高度な構造物も実現しました.一方で,社会基盤構造物はスケールが大きく,非線形性部材も包含し,作用外力にも不確定性が高いため,解析・実験のみに基づくアプローチには限界があります.当研究室では複雑な現象・挙動をモニタリングしたり,それによりモデルの妥当性を確認し,より精緻な解析や評価を実現する研究に取り組んでいます.


しかしながら,従来の計測機器は構造物の室内実験に用いられた実績は多いものの,実構造物のモニタリングにあたっては,膨大な配線を必要としたり,高価であったりと制約があります.構造物の複雑な挙動を捉えるためのモニタリングシステムの構築は容易ではありません.現状では極めて少ない計測チャンネルで計測された限定的な情報に頼ったモニタリングが行われています.


そこで本研究室では構造物の挙動を詳細に把握するために必要なモニタリングシステムの開発に取り組んでいます.


1) 安価なGPSを利用して広域で同期計測できるシステム

GPS信号に基づいたトリガリング,リサンプリングを組み込み実装しています.マイクロ秒オーダーの同期を簡易・安価に実現するもので,橋梁の振動計測,車両の振動計測等で利用しています.



図:PCとGPS,MEMS加速度計を利用した同期計測システム

2) スマートフォンを利用した計測アプリ

スマートフォン用の計測アプリはそのほとんどが,サンプリングタイミングが不正確なため,ハードウェアのもっている計測性能をほとんど発揮できていません.正確なサンプリングタイミングでの加速度・角速度計測を実現するアプリの実装と,ポストプロセスによるリサンプリングを併用することで,正確な計測を実現しています.


図:計測アプリと,複数のスマートフォンで計測した加速度波形

3) レーザーやレーダーを利用して遠隔から対象物の振動を捉える技術

レーザードップラー速度計やレーダーを利用して遠隔から,斜張橋ケーブルの振動を計測したり,橋梁のたわみ量測定をします.対象構造物に近接することなく,対象物の振動や変位を正確に捉えることができます.




4) 無線センサネットワークを利用して広域にわたる構造物挙動を捉える技術

CPU,MEMS型の安価で小型なセンサ,無線通信,バッテリを組み合わせた無線センサを先端技術研究所の森川研と共同で開発しています.地震計にも匹敵する高精度計測,広域をカバーする通信ネットワークを瞬時に構築できるロバストなマルチホップ通信(センサノードをバケツリレーのように中継する無線通信),1ヶ月から数年レベルのバッテリ寿命,という特色をもつ,極めて高度な無線センサです.




2.2. 構造物の高密度モニタリング

従来のモニタリングでは計測網の構築に手間・コストを要したために,計測点数は極めて限定的でした.90年代にきわめて密に計測を行った白鳥大橋の動態観測データを当研究室で分析し,耐風性能の検証をしてきました.高密度に高品質なデータを得られたがために可能となった評価といえます.その後,高密度に高品質のモニタリングデータが得られることは稀でしたが,新しいモニタリングの仕組みの研究開発がすすみ,高密度で高品質なモニタリングを現実的な手間とコストで実現しつつあります.これまで計測チャンネル数が限られ,特定の部材や1橋梁に限られていたモニタリングですが,橋梁群としての密なモニタリングも現実のものになりつつ有ります.当研究室では現在,都市内高架橋群交通振動モニタリングデータの分析や,隣接する複数橋梁の地震応答の分析に取り組んでいます.



図:白鳥大橋の高密度動態観測

2.3. 広域路面評価

わが国を初めとするインフラ整備先進国の道路は延長の途にあるものの,維持管理の時代へと確実に移行しています.交通荷重を繰り返し受ける舗装路面は損傷を生じやすく,車両走行性の低下や周辺の居住環境の劣化につながるだけでなく,交通事故の原因となるケースも少なくありません.そのため,路面状態を定期的かつ即時的に把握し,維持管理することは非常に重要な課題です.途上国においては,予算や技術者能力の制約から劣化の著しい道路も多く,適切な維持管理が求められる一方で,依然として建設の時代といえます.新設直後やその後の路面状態を把握することは良質な道路インフラを築き上げていく上で不可欠です.


従来の路面の診断・点検は,主に検査員の目視と路面性状測定車によって行われてきました.前者は特別な機器を要しない簡易で即時性に優れる点検であり,現在の点検業務の大部分を占めていますが,その精度は点検者の経験や知識,技量に依存し,定性的評価にとどまります.後者は,定量的で高精度な診断が可能であるものの,初期導入費,運用費ともに非常に高額で,また,データ収集や処理に時間を要し即時性に欠けます.


これらの背景から,簡易で定量的かつ高精度に路面状態を診断・評価可能なモニタリングシステムの構築と確立が強く望まれます.路面性状を客観的に評価する方法としては,レーザーや接触式ローラーなどを利用して路面プロファイルを直接測定する方法と走行車両の動的応答を測定する方法があります.当研究室では,高速道路の多数の日常巡回車などに搭載し,高頻度に計測することを想定し,一般車両の鉛直加速度応答を利用した移動路面モニタリングシステム(Dynamic Response Intelligent Monitoring System,DRIMS)を開発しました.既往の手法と異なり,車両の改造を必要としない,極めて安価で簡便なシステムです.現在では他大学や関係企業とコンソーシアムを立ち上げ,そのメンバが共同して研究や社会実装を進めています.


2001年には検討が始まった本システムは近年ではスマートフォンへの実装,バス・タクシー・警備車両など営業車両を利用した広域で密な路面評価,加速度と角速度を組み合わせた高度な解析に基づく正確な路面形状再構築など,研究・実装両面で展開が進んでいます.



図:車両のモデル化と広域の走行データ収集・分析・可視化

2.4. 軌道モニタリング

鉄道軌道は,列車荷重の影響により絶えず変化しており,定常的な維持管理が求められます.検測車にセンサを搭載した計測システムを用い,基準値を満たすよう管理することがその1つです.ドクターイエローに代表される検測車や,人手を要する検測器がありますが,それぞれ重厚なことと,手間がかかることから高頻度な計測には適しません.また,中小の鉄道事業者では高価である検測車を所有しておらず,導入も困難です.事故を未然に防ぐには,現状よりさらに高頻度にモニタリングすることが有効です.


ところで,近年,情報技術は目覚しい発展を遂げており,構造物の挙動を計測するセンサや各種通信機器を用いた構造物のヘルスモニタリング技術の開発が盛んに行われています.これらの技術を活用することで,中小鉄道や地方自治体の管理する各種老朽化した施設の維持管理の合理化を図り,効率的に日々の安全性を確保することが必要であると考えます.


このような背景から,当研究室は主に中小鉄道を対象として,日々の安全性の向上,事故・災害の防止を目的とした,簡易かつ高頻度な計測を可能とする軌道モニタリングシステム(Train Intelligent Monitoring System:TIMS)の開発を取り組みでいます.営業車両内に加速度計,簡易な計測システムを設置し,走行中の車両振動から軌道の状態を常時監視するシステムを構築し,地方鉄道において継続的な実験を実施しています.GPSセンサから得られる速度情報と,車両加速度を2回積分して得られる距離情報を補完しあうことにより,車両走行位置を検出する位置同定手法を開発する上で,車両の上下,左右方向の加速度の最大値,RMS値を管理することにより,軌道状態を高頻度で監視するシステムを構築しました.本システムは近年ではスマートフォンへの実装,加速度と車内音の相互補正による列車位置同定手法の提案,複数測点から高度なデータ同化の手法によって軌道変状の逆推定,乗り心地指標に基づく途中国鉄道線路状況の簡易把握ツールなどを展開し,日々進化しています.



図:車内音を用いた速度推定手法の概要


図:車内に設置したiPod Touchと遮音容器

2.5. 移動体からの橋梁固有振動数評価

橋梁の固有振動数は,解析モデルの検証に利用されたり,共振現象を規定したりする,極めて基本的な物理量です.近年の橋梁維持管理の文脈では,金属支承の腐食・固着などにより固有振動数が変化することを利用して,固有振動数推定から支承状態を推測することも研究されています.しかし現実は,実橋梁の固有振動数はほとんど把握されていません.膨大な数の橋梁に計測機器を設置して固有振動数を把握することは現実的ではありません.


そこで,橋梁上を走行する車両の振動応答を計測・分析することで,橋梁固有振動数を効率的に推定する研究がなされてきました.しかしながら,車両の振動応答には車両の固有振動成分や路面凹凸に由来する振動成分が重畳し,橋梁固有振動数を抽出することは容易ではありません.当研究室では複数車両の振動応答を統合解析することで,その共通信号成分として橋梁固有振動数を同定する技術を開発しました.車両走行記録を利用して効率的に,走行路線の多数の橋梁について固有振動数を把握することが可能となる技術です.



図:複数車両の共通振動成分として橋梁固有振動数を抽出

2.6. レーダーによる床版モニタリング

道路橋の走行安全性を確保するために,多く使われている鉄筋コンクリート(RC)床版の安価で信頼性の高い状態評価技術の開発が求められています.現在RC床版内部の状態調査のために車線規制を掛けて舗装を剥がして人力で密に打音試験を行うなどの方法がとられていますが,長時間・大規模な調査となるためコストがどうしても高くなります.


RC床版内部の損傷を人力によらず自動的に検知するために,橋梁研究室では非接触・高速での計測が可能な電磁波によるレーダ技術に着目しました.レーダ技術は,地中内部の異物を探査する「地中レーダ」として実用化されています.深刻な損傷に繋がりうるRC床版の損傷として,上側鉄筋とかぶりコンクリートの間付近に発生する1 mm以下の幅の「水平クラック」やそれが進展してできた「土砂化」があります.地中レーダで主に用いられるUHF帯域の電波の波長はこれらの損傷のスケールの数百倍~数千倍で損傷部位での信号の変化が極めて微弱で,またアスファルト,コンクリート,鉄筋など極端に異なる電気定数をもつ媒質の中からわずかな損傷を自動的に検知する技術は確立されておらず,ハード,ソフト両面からの開発が求められています.


そこで橋梁研究室ではまずソフト面に力を入れて床版の損傷をレーダ技術により自動的に検知する信号処理アルゴリズムを開発しています.ハードには既に商用化されている車載して地中内部の三次元計測が可能な3 GHz帯の地中レーダを応用しています.損傷部での信号のわずかな変化を強調するため「逆畳み込み演算」や「相関演算」とよばれる方法により信号を処理し,統計処理を行うことで損傷箇所を推定しています.構築したアルゴリズムの有効性を検証するために実橋梁のみならず理想的な損傷を埋め込んださまざまな試験体を構築し,計測・分析を行っています.現在はさらにハードウェアの開発にも乗り出しRC床版内部の損傷を検出するのに最適なレーダのプロトタイプを作っています.